羽化することのない痛み/由比良 倖
 
て、眠さに閉じこもる母を、どんどん追い越してしまう。そういう僕が間違いなのかと思って、すぐに、つんとするくらいに泣きたくなって、本当に涙が流れてきそうで、僕は急いで笑う。
 急に、喋っている僕が何なのか分からなくなって、自分の目が泳ぐのが分かる。そしてそういう戸惑いの辺りに僕が本当はいるのかなと思っていると、幽霊みたいな女の子が、冷蔵庫の明かりに照らされている真夜中のイメージが見えて、母を相手にぺらぺらの言葉を並べている自分をとても虚しく思う。
 皮膚の粟立ち、また泣きたくなる、速度、太陽系の中でただひとり軌道がずれていく僕の感情。頭の中は真っ暗で、黙っていてもそれだけでいいような誰かと、果物
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