羽化することのない痛み/由比良 倖
 
 この頃は、多分軽躁状態だ。毎日が楽しい。けれど一抹の不安。
 今僕はふわふわ浮いていて、ほとんど喋り尽きるということがない。身近にいる母が僕のお喋りの一番の犠牲者になっている。僕は何時間でも喋る。意味は無くて、途切れない音と、滑らかで棘の多いリズムだけがある。台所には生活感ともったりしたにおいが堆積していて、僕は台所の主の母もまた停滞しているように思えて、時々腹が立つ。母は眠いくらいが気持ちよくて、あまり目覚めたくないと言いながら、ストーブの前から動かない。老人め、と思ったり、母の中でドーパミンは一体何処に行ってしまったんだ?、と思う。同じものを食べているのに、僕の感情だけにスピードがあって、
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