土佐の夏・記憶を突き抜け立ち上がる光景/ひだかたけし
 
夏休み、小学生の兄と僕、二人きり

瀬戸号は待っていた
東京駅、夜八時
宇野へ向かい出発する
夜闇をひた走る寝台列車

車窓の外に規則的に現れる
闇に明滅する踏切の赤い光
限りなく底へ沈んでいくその感覚

早朝の宇高連絡船
高松へ、海を渡る

深く深くうねる青

土讃本線はディーゼル列車
仄かな排気ガスの臭い放ち
緑の深山を切り開き
四国を横切り
高知駅へ重々しく到着して

真っ昼間、熱く輝く南国の陽

家ではおばあちゃんが待っている
駅前から真っ直ぐ伸びる幹線道路
車の群れに混じりガタゴトと
はりまや橋を過ぎる市電

平屋の広い一軒家、
[次のページ]
戻る   Point(2)