宮村さん/ちぇりこ。
 
村さん仰向けでゴロン、背中を左右にイゴイゴさせている、ぼくと目が合うと、声を出さずに「なー」と言う

宮村さんの出生はわからない、おそらく捨て猫だったのだろう、とある漁師の証言だ、ここは小さな漁村だけど、鳶、烏、鴎に野良犬、命を刈り取る捕食者には事欠かない、そのような過酷な環境を十年以上も、宮村さんは自らが捨てられた身でありながら、ひとつ歳をとる毎に、何かをひとつ捨ててきたのだろう

夕方のTVのニュースでは、偉い政治家の人が、黒いピーナッツを捨てたと言っていた、お母さんは食い入るように観ていた、大人という難解な生き物が、何を言っているのか、幼いぼくには解らなかった、水木しげるさんの本に「猫は三十年生きると、猫又という妖怪になる」と書かれていた、ぼくは三十年生きる間に何を捨てていくのだろう

宮村さんは、あと二十年足らずで猫を捨てる
猫又になる


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