避難所の自称詩人/花形新次
台風のために
公民館に避難した住民の中に
自称詩人が混じっていた
自称詩人はここぞとばかりに
避難住民に対して
自称詩を朗読し始めた
その自称詩は
典型的な自称詩で
空とか雨とか世界とか
宇宙とか星とかがちりばめられている
自然讃歌だった
自称詩人は涙を流さんばかりに
声を張り上げていたが
暴風雨で家を追われた避難住民には
全く的外れのものだった
「そんなに自然が良いなら
台風の目の中にでも飛び込んでくりゃいいがな」
と一人の老婆がポツリと言った
しかし、もちろん自然詩人の耳には
届かない
今度は雨の日にあった少女との恋について
滔々と語り始めた自称詩人
─────62歳
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