闇の奥/ひだかたけし
 
かけたある早朝、
あなたは言った

「これ以上この坂を下ってはいけないの
下は均衡を崩した人間が魅せられる霊魂の溜まり場」

ぼくはあなたの言うことを
激しい耳障りのなか聞いていた

ぼくはあなたの声の響きを
激しい耳鳴りのなか聴いていた

  *

夏の後ろ背を
蹴り落としたように
唐突にやって来たこの秋日、
あなたはあの長い坂道を
予告もなく遠く
落ちていった

一日は終わって夜闇がそろりと徘徊し
一日は終わって闇の奥から白手が伸び





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