快楽からの追放者/ただのみきや
に隠れた記号
魚をぬらす雨
後ろで結んだもうさわれない
あの髪の祟り
庭園
ちぐはぐでグラついたもの
すき間だらけを埋めようと右往左往
男は笑顔の真ん中で死んでいた
耳のない生きものが雨を聞くように
砂漠になるくらいことばでいっぱいになって
滝のような時間に打ちのめされて
笑顔の真中で死は熟成されていた
切り花の生々しさと
毎日見舞っていた病人が逝った時の
あの特有の清々しいほどの喪失に似て
風と光が憩っていた
口笛が吹けない子どものキスが
壁からコントラバスを剥ぎとったのか
なにひとつリセットされることのない
よく晴れた解剖図の中で
蛇おとこ蛇おんな
こころの鱗がはがれて落ちた
病んだ目の にごった白昼夢
山ひとつ隠せるほどの霧となる
ことばはもう糸屑でしかない
ちいさな一枚の鱗のほかに
二人に見つめる世界はない
(2022年9月18日)
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