ハーレスケイドでの戦い(五)/朧月夜
 
だが、アイソニアの騎士はぶつくさと一人ごちていた。
「エインスベル……世界の救い。そこに立ちはだかる『魔女』という言辞……」
それは、エインスンベルのあるべき姿と、厭うべき姿とを、
重ね合わせた言だった。彼は、迷ってはいないが、惑わされてはいた。

(この下賤な盗賊が、我らを救うのであれば良い。
 しかし、もしも災いをもたらすのであれば、俺は奴を殺すであろう)──と。
この一行は、見た目以上にばらばらな存在だったのである。
そんな彼らが、エインスベルを救い得たということは、奇跡でしかない。

だが、今は「今」に帰ろう。未だ、アイソニアの騎士と盗賊ヨランとが、
ハーレスケイドでの探索を続けている、「今」にである。
ダルザジアの群れが去った今、次なる試練が彼らに襲いかかろうとしていた。

エビ・グレイムの襲来である。エビ・グレイムとは、百の目と百の口を持った、怪物である。
その思考は、すべての生き物の心を混乱させ、「疑念」の境地に至らせる、とされている。
小山ほど大きな姿が、ヨランたち一行の前に現れた。エビ・グレイムであった。
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