腰の曲がったおばあさん/ひだかたけし
腰の曲がったおばあさんは
下から世界を見上げます
澄んだ眼で街行く人を見つめます
そしてひとりゆっくり歩を進めます
生きる静かな執念です
腰の曲がったおばあさんは
昼間ヘルパーさんに家事を任せ
部屋でゆっくり読書します
時折頁の上端を折りながら
数冊の詩集を代わる代わる読み進めます
輝く魂の営みです
腰の曲がったおばあさんは
夜はキャンバスに向かい絵を描きます
身を起こしスツールに座りながら
直観がイメージを捉える瞬間に絵筆を走らせます
内なる宇宙の遊戯です
腰の曲がったおばあさんは
たまに顔を見せる小学生の孫を迎え
やっぱり下から見上げます
幼い
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)