神隠し/ただのみきや
 
た霊の息づかい
同じころ
誰かがそっと伸べた柳のような手を取って
金槌にしたりバールにしたり
ことばを使役することはできない
素直に従順に歩み寄り
掻き乱すtrickster
過ちの初め それは
気持ちに名前をつけたこと
今では名前が先に在ったかのように
主を気取り
気持ちに対して暴力的に貞操を強制する
わたしの伸ばした手が
棘のある蛇に見えたと言う
刃を持って柄を渡そうとしても
あなたには同じことだった
その耳の外縁をなぞる
杯から跳ねる魚
雨を降らせる歌声の踏み分けた
どこにもないと混同されたままで
羽衣の破れた
顔のとけ落ちた
つらなる時間の裸形
ちいさな空白の連綿が
ひとりで喰らう心臓の味
大切なものの神隠し



                      《2022年9月4日》








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