神隠し/ただのみきや
 
人類の記憶の総体から
名札のない死体ばかり幾つも幾つも
バラバラにされて脈略もなく
いたるところからあふれ出して来る
机の抽斗から冷蔵庫から本の隙間から
シャワーを捻ればそこからも
一匹の大きな蛾が意識の縁をまわっていた
生活は結晶化した硬質なものではなく
絶えず更新されながら抜け落ちていく
ランプの周りを一匹の蛾がまわっている
近づきすぎて歓喜に燃えて
かすかに匂う音
限りなく折り畳まれた地図
肉体に潜む壊死した血だまりから
黒い根が這いのびて形を変えながら
物語を紡ぐ刺青のように
やがて純粋な装飾へ変わっていく
隠れた獣を追い立てて獣に喰われて
稀人をもてな
[次のページ]
戻る   Point(2)