かにのみこそのかみ/菊西 夕座
 

夜の軌道を涙がはしる
星のひかりを水面にうけて
まるで転がるひとつのビー玉
回転速度は地球とおなじ
うわずる瞳が坂に消え
まっさかさまの流れ星
ふるえる日輪、始発駅
手をふる窓辺に白い息
徐々に降下のファスナーが
別れの世界を切りひらく
めざめて消えた夢しづく
夜行列車にのせたのは
装いきれない悲しみと
たったひとつの真の詩
かにのみこそのかみの声

思いだしたらまたひとつ
夜の軌道を涙がかえる
それは玉なる御輿のようで
かくしているのは反射姫
向かうは仮の終着駅
徐々に上昇、ファスナーが
うつろな罰に世をとじる
人とは門にすぎないけれど
月とつ
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