嵐のあと/塔野夏子
 
嵐は去った
それが嵐であったことを
彼だけが知っていた


白い円型廃墟
円の中心へとくだる階段を
彼は降りてゆく

円の中心にこんこんと湧くもの
彼は手にした器で静かにそれを汲む
器いっぱいに満たされたそれは夢である

(誰のための)
(何のための)
彼は問わない
ただ器の中の夢のゆらめきを見つめ
それから夜空へと目をうつす

彼のまなざしの果てには
冴えざえと凍る月


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