嵐のあと/
塔野夏子
嵐は去った
それが嵐であったことを
彼だけが知っていた
夜
白い円型廃墟
円の中心へとくだる階段を
彼は降りてゆく
円の中心にこんこんと湧くもの
彼は手にした器で静かにそれを汲む
器いっぱいに満たされたそれは夢である
(誰のための)
(何のための)
彼は問わない
ただ器の中の夢のゆらめきを見つめ
それから夜空へと目をうつす
彼のまなざしの果てには
冴えざえと凍る月
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