言ふなかれ、君よ、わかれを、/藤原 実
 
変わり、血だらけの兵士の敵前上陸と心を一つにしようと呼びかけていたのが「摘むのはお止し」「匂いを嗅げばそれで良い」と慈愛に満ちた母となって子供を諭しているのです。

このあからさまな変節ぶりにある人は憤慨し、またある人は冷笑するかもしれません。
しかし そういうことよりも私が 異様に感じたと言ったのは、思想的には180°の大転換がこの数年の間に作者に起こっているのにもかかわらず、その語り口の調子もリズムもほとんど
変わらず、精神の激しい葛藤のあともうかがえないということです。
さらに言えば 二つの詩に共通する自らの世界を美しく描こうとするあからさまなナルシシズムにも、敗戦はなんの痛手も与
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