解くことを諦めた知恵の輪が唯一の遺品だった/ただのみきや
 
透明な身体からひとすじの血が流れ
その血は歩き出す
煙のしぐさで ふと立ちどまり
頬杖をつく 女のように男のように

見るという行為が人を鏡にする
歪んだ複製を身ごもり続けることを「知る」と呼んで

水銀の鏡ふかく盲目の主(ぬし)が住んでいる
その総身の傷がいっせいに凝視した
交感ではなく交換 まぶたの内と外が入れ代わる


日差しをすくって飲む
彼女たちは掌で味わい素足で乾きをいやす
くったくのない夏のおしゃべりは
秋には手紙の束として燃やされる 鮮やかに

スカートをはいて逆立ちして
彼女の性はむきだしだ
未来の匂いを大気からたぐりよせ
勤勉な労
[次のページ]
戻る   Point(1)