未完成協奏曲/メープルコート
酷暑の中、日傘もささずにこの村を歩く者がいる。
正午の鐘が鳴る。
家々の窓は固く閉ざされている。
黒いマントを纏ったこの男は、片手にステッキを持ち、長い石畳の坂を上ってゆく。
この男の他に、道行く人は見当たらない。
蝉時雨の中、男は坂を上ってゆく。
小高い丘の上から海が見える。
海は凪いでいる。
沖の方の大きなタンカーが小さく動いている。
丘の上に建つ屋敷の窓は開け放たれている。
屋敷の二階、広いヴェランダには小さなテーブルと籐椅子が二つ置かれており、
一人の老婆が長い手紙を書いている。
黒マントの男の顔には深く皺が刻まれていた
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