木切れ/岡部淳太郎
ゆっくりと噛みしめるように味わっている。病気になったから不幸だなどとは思わない。そうではなく、病気になって入院したということすらある種のイベントのようなものであって、そうであるならばそれをじっくりと味わうべきなのだろう。そう、私はこの初めての入院生活を味わっている。私は不幸などではない。いまいましい高血圧が私を打ちのめそうとしても、私は書けるしこの状況を味わうことが出来る。この非日常の感覚を確認することが出来るのだ。それから先のことは私にも他の誰にもわからない。私はきっといまの乾いた木切れのような状態を後から振り返ってそこに意味を見出したがるだろうが、それはいまの私ではなく未来の私に任せるべきことだろう。この先どうなるか私にもわからないが、私はいまの私を、いまここに乾いた木切れのようにして打ち上げられた状態の自分自身をしっかりと確認して見つめている。いまの私に出来るのはそれだけだ。
(2022年7月9日〜10日)
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