木切れ/岡部淳太郎
 
院生活だが、正直面倒だと感じることもあった。よくありがちな病院内のルールだったりするのだが、それらもすべてが病気を治して患者たちを再び元の世界に戻すために存在するものであった。元の世界とはつまり、病気とは無縁の広い社会である。逆に言ってしまえば、病院の内部は社会ではない。患者というそこに集められてしまった中途半端な状態の人々をもう一度健康という中途半端ではない状態にして社会に返す。それが出来ない患者には死が待っているだけだ。死もまた、中途半端ではない状態という意味では普通の健康な状態に似ている。健康があり、病気の状態があり、そして死がある。病院とはそのどちらかに振り子が揺れている場所であり、医者や
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