雨音/トノモトショウ
 
幸か不幸か
私(イレモノ)は
私(ニセモノ)で
すでに恥じらっていたのです

排水溝を巡って
夢食虫の甘い汁を啜って
情夜と誤解と固形物の反復に
そろそろ飽きていたのです

  あわよくば
  貴方の額を濡らしたいのよ
  さもなくば
  明日の朝を拒みたいのよ

ガラス細工の隔壁に
絶え間なく打ち付ける三拍子か
テーブルに並んだ瓶詰めの素粒子か
薙ぎ倒して頂きたく
体ごと重ねて頂きたく

  思わずア
  零れてしまうア

快か不快か
私(ニセモノ)は
私(イレモノ)で
とうに振り切っていたのです

仄暗い帰路でした
頼れるものを失いました
それでも溜息が落ちました
けれど泣かないと決めたのです

耳障りな雨音でした
置き忘れた大切な傘でした
もちろん前髪に触れました
けれど泣かないと決めたのです

垂れ下がった空に際立つ 私は
ニセモノでも イレモノでもない 私で
もう泣くこともできないと教えてくれたのです
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