海に暑いので出かけた/番田 
 
いえば…、編入試験に失敗した僕には仲間からかけられるような言葉もなく、まだ雪のちらつく3月の道を自転車でアパートに帰ったことを思い出すことぐらい。でも、僕はあまり悲しくはなかった。そして、荷物を赤帽に頼んで、それを積んだトラックに乗せてもらって、実家に帰ったのだった。若かったからなのかもしれない、次へと失敗がつながるであろうと思う何か根拠のない希望があった。そして僕は海と続く一本道を歩いていた。今の僕の希望は、この先が海であるということを知っていることぐらいだった。家に帰れば、明日の天気や、スーパーの特売を思うことぐらいだった。そしてアマゾンプライムの有効期限を。僕は誰もいない海で全裸になり、海パンを履いて中に入った。地上の気温とは裏腹に、海は、でも、冷たすぎた。うねりもひどく、ボードでもないことには、楽しめそうにない冷たさ。青い唇になった僕は消波ブロックの上から、男女のカップルが波に乗る様子を見ていた。女の方はピンクで、男は黄色のボードだった。フナムシが、その、隙間からいくつも現れては消えていた。

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