波音/かのこ
 
湿った夜の空気の中を
飛び回る夏の虫が疎ましい
希望も絶望もないのに
月明かりが仄明るくて疎ましい

波音のひとつもない
此所が海辺だったらいいのに
そしたらきっと泣けるのに

ひとりぼっちで膝を抱えて
身体がじとり、海になる
その瞬間を待っている

メロディーのひとつもない
この鼓動が波を歌えばいいのに
そしたらきっともっと楽になれるのに

空間がぐにゃり歪んで
明日が飲み込む、それでも

ひとりぼっちで膝を抱えて
身体がじとり、海になる
その瞬間を待っている
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