正風亭(推敲後)/武下愛
る様に決めます。帯締めをお太鼓に通して前で結びます。帯も終わりです。姿見に映った全身を確認します。おかしな所は見当たりませんね。前身に鶴、背後の帯に紅葉。一度も染めた事がない黒い髪を、母も、祖母も、租祖母も使っていた、木製である事しか分からない木櫛で髪をとかし、清潔に見え、料理の邪魔、料理に入らない様に結い上げ、赤い紅葉をかたどった、かんざしを刺しました。きっと今日の御客様も喜んでくださるでしょう。立ち姿で引き締めた心持(こころもち)。しかめ面では御客様が心配してしまいますから、微笑みます。
《命を有難く戴きなさい》
《有難く戴く命を料理しなさい》
《命一つ一つの味を生かしなさい》
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