彼の欠片/ホロウ・シカエルボク
な緊張はもうなかった
玄関のドアの前に誰かが居た
昨日の公園のあの男だった
服装が同じだったし
背格好もだいたい同じだった
願望が作り出したまぼろしではなさそうだった
薄暗がりに溶け込んで
表情はよくわからなかった
俺には彼がどう切り出したものかと悩んでいるみたいに見えた
でもじっと彼がなにかをやり始めるのを待った
やがて
男は子供のようにさよならと手を振った
俺は肩の力を抜いて同じように返した
それから
強制的な瞬きみたいなホワイトアウトが一瞬あって
男の姿はもう見えなくなっていた
ちょっとした縁で
それが忘れられずここに来たのだろうな
なんとなくそんな気がした
俺は起き上がって
洗面で顔を洗い
簡単な朝食を作って食べた
まるで知り合いが逝ってしまったような気分だった
コーヒーを飲みながら朝のニュースを見た
昨日死んだ男の話などもう誰もしていなかった
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