蠅の王が見ている/ホロウ・シカエルボク
のメイン道路を見下ろす、わけもなく忙しない車たちが先を争っている、それは餌に群がる鯉みたいに見える、ラウンジはしんとしていて、明るく、蒸し暑い、いつの間にか転寝をしてしまい、拳くらいの蠅の夢を見る、お前は人間だが人間のようではない、と、蠅は不思議そうな顔をする、俺が黙っていると、意図が通じていないと思ったのか蠅は話を続ける、世に溢れている人間という生きものは俺たちとそんなに違いがないように思える、そう言って前脚を擦り合わせる、それは彼らが怠っているからだよ、と俺は答える、なるほど、と蠅は大きく頷く、もっと人間のように生きることが出来るのに、横着をして蠅のように生きている、というわけだな?俺は頷く、勘違いしないでくれ、と慌てて付け足す、あんたたちを馬鹿にしてるわけじゃない、蠅は苦笑する、大丈夫、わかってる、そうして片手を軽く上げて別れの挨拶をする、俺も同じ仕草を返す、ぶうん、と巨大な羽音が俺の脇をかすめて遠くなっていく、目が覚めた時、そこにはかすかにまだやつの蠢きが残っているようなそんな気がしたんだ。
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