猫が空風の空き地を/佐々宝砂
猫が空風の空き地を歩いている。空耳。夕暮れのネックレスはもうすっかりラピスラズリの感触だ。味わったはずのコーヒーの苦みは、いまやどこにいってしまったのだろう? 透明な連鎖。青ざめたトルソが、臍のあたりに微笑を漂わせている。炬燵をしまった記憶がどこにもないのに、炬燵はなくなってしまって、空風広場を歩いてた猫は炬燵と一緒にどこかにしまわれてしまって(きっとしまっちゃうおじさんがしまったのだ)、玉の緒がきらきらと分断されて空に舞い上がってゆく。絶えなば絶えね? なつかしい歌が耳のうしろから背中に這いおりてゆく。どうしてと問うのは風ばかり。風はいつも、なにも、知らない。自分がどこに吹くかも知らない。自分がどこからきたかも知らない。つまり、私は風である。
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