蝶を咥えた猫/ただのみきや
ひとつの自分が
無数の綿毛に変わる
わたしは消失し
野にある数多の物語となる
未来から過去へとすり抜けた
あなたはわずかな時間だった
こうして記憶は一瞬を一生にし
わたしだけがひとり一緒にいる
眼差しをはね返すものだけが
持ち物だった
見てごらんすべて
あなたが映り込んだこの世界を
魚に翼は無用だ
だが魚の翼だけがここにある
サモトラケのニケの
大いなる欠損と共に
初めから無かったものだけが
音楽と共に揺れている
わたしは煙
わたしの生
異国の匂いの一本の線香
蝉の響きは無辺の汀に
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