寂寞の谷/ひだかたけし
 
時は夕暮れ、涼風吹き
身は一点に凝集し
言うことのない心持ち
これ以上ない均衡に
やがてわたしは
寂寞の谷に落ちる

震える肉身を透徹と
貫く哀しみありありと
今、底無しの天を仰ぎ見る

胸を領するこの空莫
激しく求めるこの欲望
二つがぶつかり弾けては
虚脱の海に呑まれゆく

(たましいは高みを目指し
肉身は浅瀬に混濁し
分裂する己を持ち上げんと
今日も優しい夕暮れが来る)

  *

時は夕暮れ、一吹き風
身は一点に凝集し
言うことのない心持ち
これ以上ない静かさに
やがてわたしは
寂寞の谷に落ちる






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