鋭角の風景/岡部淳太郎
 
彼は
街角の信号機に吊るされている
頸に
太い縄を巻きつけられて
どんな罪なのか
どんな過ちなのか
それを知る者は誰もなく
彼は吊られながらも 笑っている
それはひとつの風景
この世界と二重にぴったり重なった
もうひとつの世界にある風景
やがて幻の鴉が
彼の肉をついばみにやってくる
そして幻の虫が
彼の腐敗を加速させるために群がる
それはひとつの風景
もうひとつの世界にある風景
彼は吊られながらも 笑っている

やがて普通の君が
この横断歩道を渡りに来る
渡ろうとして立ち止まる
どんな偶然なのか
どんな必然なのか
普通の君は何かが腐ったような
得体
[次のページ]
戻る   Point(6)