この春は地獄からやって来た/ただのみきや
 
に頬をあずけて
なにを聞きいている
遠い潮騒か 自分の想いか
思い描けなかった明日が今日になった時
なんだかわからないけど違っていた
無視されているのか監視されているのか
未知の秩序が埃っぽくにごっていた
精密ドライバーを持ち出して
きみは貝をこじ開けようとした
自分の中にあるはずの光を確かめたかった
歯がゆい蝶のように見つけられなかったものに
さわれる気がしたあの抱擁
すこしだけ鋭利な何かを求めた始まりのめまい





遺書抜粋

自分の生前供養として
石を積むように言葉を積んだ
賽の河原の鬼たちも
記号の塔は崩せまい
金剛不壊の愚かさよ





クジャクチョウ

光の窓が開いていた
玄関前のコンクリートに
一羽の蝶が止まっている
翅はそろえてしっかり立てて
風がすこし触覚をゆらしたが
あの青と緋の眼は閉じたまま
朝にまぎれた小さな夜



                《2022年4月24日》








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