蜃気楼/塔野夏子
 
四月の世界が明るく亡びて
あとはただ蜃気楼がゆらめいていた

蜃気楼の中で
花は咲き 花は散り
人々はさざめき行き交い
明るく亡びた四月の世界が
まるでそこに そっくりあるかのようだった

(それなら ねえ
 蜃気楼を見ている僕は
 語っている僕は 誰なの)

(もしかして僕も 僕のいるこの場所も
 蜃気楼の中なの)

蜃気楼の中の蜃気楼の中の蜃気楼の中の……

いずれにせよ四月の世界は明るく亡びて
そして誰もがそれに気づかずにいるのだった

(誰もが という僕は 誰なの)



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