詩の日めくり 二〇二〇年二月一日─三十一日/田中宏輔
 
二〇二〇年二月一日 「女子高校生」


 もう何年もまえのことだけれど、電車のなかで見た光景が忘れられない。目の不自由な男のひとが杖をもって入ってこられたときのことだ。制服を着たひとりの女子高校生がすっと、そのひとのそばに寄って、自分の肘を持たせて行き先を聞いたりしていたのだった。彼女にとってはごく自然な振る舞いだったかもしれないけれど、ぼくには感動的な場面との遭遇だった。女性のほうが看護師が多い理由がわかった。美人でも、ブサイクでもない、ごくふつうの女子高校生だった。ぼくには勇気もなく、恥ずかしく思う気持ちが強くて、彼女の振る舞いが英雄的に思えたのであった。


二〇二〇年二月二日 
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