エメマンと川/番田 
 
若い頃は考えていた気がするけれど、そのことはもう、よく覚えていなかったし、そこにはただ、明らかな事実だけが残されているだけだった。


エメマンを飲み干すと、僕は立ち上がり、歩き出した。僕の失業していた頃の、この街のはっきりとした思い出が眼の前に現れてきたのを感じながら、震災の前はまだかかっていた小さな橋を見ていた。そして、菜の花畑のように咲き乱れている菜の花の丘を見ながら、街に歩き出していた。もう、昔のことは忘れてしまったのだと。


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