またね/足立らどみ
言い出すのかと声の主の顔を見つめ返した
子どもと思っていたが背の低い女性のようにも見えた
思わず、なに人ですかと反射的に聞いてしまった
モンゴル人です
その人は一瞬たじろいだあと出身地を話しながら
私の目を見つめ返してきた
その人の顔は色白であり平面的で私は高校生の時に観た
絵画の少女に似ているなと感じた
いつもの朝から私は何の会話をしているのだろう
私はその場からはやく離脱したかった
今日はどちらに行かれるのですか
私から話題をふると、その人は散歩ですと答えた
私は駅の方向とは逆の池上本門寺を指差して素敵な場所なので
行ってみたらとアドバイスして手を振って別れた
「またね」
私は背面からの大きな声に肩をすぼませてから
ゆっくり振り返ってみると誰も居なかった
隠れる場所のない街中をしばらく私は探し回ったが
その人は消えていた
何者だったんだろう。昨日、九段下で食べた八咫烏のことを
ふと思い出した。
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