雨の日の憂鬱/山人
つある老夫婦のこの世とのカスガイがそこにあった。年をとるということは醜い、真からそう思う。しかし、それに逆らうことはできない。そのあきらめのブルースが聞こえている。老夫婦はまるで異星人のような言葉を話し、ふたたび暇な列車に乗り込んでいった。
彼らが去り、まだ午後の交代時間まで二時間近くあった。次の交代は井出という人である。
井出さんと私の交代の儀式では必ずジョークを言い合って交代するという暗黙のルールがある。なぜジョークを言い合わなければならないのかと問われれば、それは義務感なのだろうと思う。まったく仕事のない仕事を終えて、ふたたび仕事はないであろうと思われる人と交代するのは、いささか芸がない。つまり、芸をしない芸人はいらないということなのである。私たちは芸人ではないが、私と井出さんの中では必ずこれは一つの責務であり、私たちの芸をそれぞれが披露しあう重要なワンシーンなのである。
県境の無人駅の勤務を交代し、外に出るとやはり雨は降っていた。やるせない雨である。
雨は無下に降っていた。
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