昨日、私は山に向かった/山人
 
い斜面が底まで続いていた。身の危険を感じ、下山に掛かった。
 平らな地形までなんとか下降し、風の緩む機会を見逃さず、スキー板のすべり止めのシールを脱着した。
 三時間五〇分登り、そそくさと下山に掛かったのだ。
 視界が悪い中の滑走はなかなかあることではない。まして、単独では怪我やトラブルは断じて許されない。何かが起こればこの寒さゆえ、普通では済まないだろう。そんな事柄が体を緊張させ、かなりの安全策で滑走した。
 誰も居ない山中の雪面は凍り、ガリガリと氷雪を削りとる音とビュービュー吹く風しか聞こえなかった。
 一三〇〇メートル付近から一〇〇〇メートル近く迄の間は予想通り強烈なモナカ雪で、曲
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