田崎さんちの牛/ちぇりこ。
 
して玄関に向かう
ぼくは大きくゆっくり揺れる田崎さんの背中を見ていた
田崎さんの背中越しに、牛を見ていた
田崎さんは牛の言葉がわかるのだろう

(もう、これからは来ないでくれないか)

牛に、そう別れを告げられた気がして
ぼくは玄関に消えてしまった田崎さんの背中を
ずっと見ているしかなかった

ぼくの生活圏内から
牛は忽然と姿を消した
見上げるほど大きな存在なんて
見知った大人たちしか知らなかった
ぼくは
牛に会って初めて
生きものに成れたような気がする




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