振り上げた拳で自らを力いっぱい殴る人のために/ただのみきや
 


 *

瞳の地球は潮解する
溺れる光のせいでわななきを隠せない
湖はあざだらけの夜で花びらを病んでいた
タオルで包んだ拷問だけが時計のように
釣り人の歌に刺繍糸を付ける
圧力はあっても質量のない記号
錆びた鎌で視野を切り裂いた
カシミヤを着た笑い声
カ行の車掌はオートマチック
左手に自分の脳を乗せて自問する
バスガールは金糸雀の大陸へ



 *

おだやなか芽吹きを夢見ている
見せないことで見られている
人はいつも裸なのだ
言葉だけが虚飾である
冬の樹木に学べ
ただ目を瞑り己に欹てて
おだやかな芽吹きを夢見ている
すべて言の葉を散らし終えて
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