振り上げた拳で自らを力いっぱい殴る人のために/ただのみきや
*
燐寸一本の囁きで
秘密は燃えあがる
煙は歌い
香りは踊り
時間は灰に
わたしはおしゃべりに
*
コンマ一秒で宇宙の果てにまで移動したかのよう
喪失の悲しみは桁外れの時空
だが奇跡も不思議も体験したことのない者が
日々見えざる神との抱擁に疑問を感じないように
それは完全なる所有の始まりであって
忘却により納められ封印された不文律の約束
喪失はある種の純化であり人は水底に沈んだ星の
鈍い輝きから起き上がる幻影に
かつての自分から抉りとられた半身に
魅せられて
ゆらめく水面を歩いてゆく
光と闇の織りなすどこまでも続く混沌
赤くも青くも燃
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)