エッセイ/たもつ
 


錦糸町駅で停車した総武線快速に
一匹のナナホシテントウが迷い込んだ
光に向かって飛ぼうとするが
むなしく窓ガラスにぶつかるだけだ
外に出してあげようにも
列車は地下に入ってしまって
テントウムシが生きていける環境ではない
結局ピルケースに入れて東京駅でいっしょに乗り換え
上野公園に放すことにした
公園には木や草がたくさんあったが
彼の主食であるアブラムシはいるのだろうか
せめて伴侶を見つけ
その小さなDNAの一片でも残すことができたらいい
いずれにせよそんなことを考えている間
僕は善人でいることができた
その後、東京国立博物館の特別展で
エジプトやメソポタミアやギリシアの
たくさんの神々を見た
テントウムシ
人間が作り出した神々
この二つの事柄を関係付け何かを語ることは容易い
しかしそのことによって生み出された意味が
何の意味も無いことを僕は知っている
これはゴールデンウィークのとある日のエッセイだ
そしてこのように書き記さなければ
数日後には忘れてしまう記憶だ



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