言う/草野春心
 


  学生寮のそばに
  ワゴンRが停めてあって
  夜 街灯のしたで光っている
  そう 言う
  架空の口蓋や歯茎などで

  蕎麦を手繰りながら
  昔おそわった担任の口癖を真似しあった
  石油ストーヴ 畳の上のコンビニ漫画 掻き揚げ
  そう思う 言いたくもないことを
  闇のうえの闇のように

  どこでも構わないが
  焔が点り、抱えた膝のなかで
  あなたの声が静かになっていく
  僕は そう言う
  やがて言葉が
  惨たらしさの写し絵になるのなんてわかっているのだから



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