ラジオ切腹/ただのみきや
 
転倒者

氷の上を歩いて行く
遠い人影よ
鴉のようにも文字のようにも見える
視覚より内側でランプが照らした顔
ありきたりな片言の答えをかき混ぜる
ティースプーン 
濁った銀
だが声はかたく
乾いた骨の脆さで透き通る
秘密のエンピツ
窓から互いの本能を見つめていた
凍死者の言葉はもうたぶん言葉じゃない
きみの死は曖昧な汚水のように混ざり切ることなく
下流に広がり希釈されるが
声は氷柱に閉じ込められた真っ赤な蝶のよう
鋭利な滴りで盲点から侵食するだろう
投げ込まれた献花の乾いた散乱
思考の窒息
時間は灰を混ぜ返し
ただ撒き散らすだけ
言葉のように容易に
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