コリドラス/ちぇりこ。
 
わたしがまだ幸せの形をしていた頃、恋人と暮らしていた
春の夕暮れの匂いのする水槽の底で、わちゃわちゃと低砂をつつくコリドラスの口許にある二対のヒゲのように仲良く暮らしていた
彼は時おり水面から顔を出して外の空気に触れようとするんだけど
酸素を思いっきし吸い込んで慌てて水底へ戻ってきて金魚のように口をパクパクさせる
そんな彼の姿が可笑しくて二人してころころ笑いあっていた

そんなある日
そろそろ俺たちも外の空気に慣れないとな
と彼はわたしの手を引いて外へ出る練習を始めた
最初は家のすぐ脇にある電柱の所まで恐る恐る行き着くと、踵を返して一目散に水槽の底までものすごいスピードで戻ってし
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