記号を嗅ぐ/ただのみきや
 


あの日きみは

歌いたかったのか 本当に
本当は本当に歌いたかったとしても
肌色の風船が息苦しく密になったその場所で
横並びに声を揃えて 
目立たないように気をつけながら
きみは本当に歌いたかったのか
ことばを纏わない裸の疑問は
こころにすっと立つ薊のようではなかったか
愛でることも知らず 覆い隠して血を流して






耳の中を手探りで徘徊する
時の裸形の羽音
気がつけば下げ振りを見ていた
広く浅い世界の傾きを
迷信深くことばを括れさせ
猫の仕草で月をまさぐる女
仮面をつけても透けていた
死という素振りひとつで
千切れた
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