戦艦パラダイス号/atsuchan69
 
かに人を殺す行為の前に敵も味方もなかった。

カレーの日は毎月、月の初めの日だ。見上げると幾十もの馬鹿でかいシャンデリアが煌々と光を放っている。そこは戦艦パラダイス号の深紅の絨毯を敷きつめたとてつもなく広い食堂だった。食事の前に艦長が席に就いたまま、「我らが神人陛下に感謝します」とはっきりとした太い声で言った。そして全員が「我らが神人陛下に感謝します」と復唱した。白いテーブルクロスの上に銀のスプーンと水を注いだグラスとカレーライスを盛った陶磁器の皿が並んでいる。カムパネラはそのうっとりするような香りを嗅いだだけでも思わず唾を飲み込んだ。こんなもの、人間を大勢殺した者がよろこんで食べてよいのだろうか? しかしひと口、黄色がかったオレンジにちかい色のカレーを口に運ぶともうじつにあっけなく論理は崩れ去った。「美味い!」そしてカムパネラは無我夢中でカレーライスを口に頬張っていた。

 初出:文学極道 2018/11/03 
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