林檎とミルクの思い出/板谷みきょう
けた
ある時
十三歳も年上の既婚の彼女が
まるで十代のように震える小声で
電話を掛けて来た
「生理が来ないんだけど…。」
『遅れてるだけなんじゃないの?』
「妊娠してたら、どうしようと思って…」
『産めば良いんじゃないの?』
「夫は子種が無いから妊娠する訳が無いもの。」
『じゃあ、堕ろせば?』
「うーん。一応伝えたくて。じゃあ。」
数日後に再び連絡が来た
「今日、生理が来たわ。妊娠じゃなかったのよ。」
喜びにうわずった
嬉しそうな声だった
『良かったね。』
ボクは一言そう答えた
それからは誘いの連絡は
来なくなり
林檎とミルクを一緒に食べる事も
無くなった
あの当時の
思いやりの欠片もない
人を人とも思わない魔物は
今も
心の何処かで息を潜めている
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