火傷と神隠し/ただのみきや
 
溺れ続ける登山家の蟻だろうか
それともこの時空に投げ込まれた
ひとつの松明ひとつの狂気だろうか
天に火傷を負わせ群れ寄る羽虫を炙り
昼も夜も燃え続ける
双生児として共に生まれるはずだった
意義の骸とそれに集る愚問のシデムシを
灰にし切れず燻り続け
重ね続けた否定の枯葉の塚に宿る魔物じみた手すさび
それを是として炎すら硬く結晶させようと


だが奪われた幼心を取り戻そうとする人は悲しい
逢魔が時 紫陽花の垣の向こう遠く
薄闇にとけた子どもへいつまでも目を凝らすように
神隠しをぽっかり抱いて老いてゆく


希望には落胆の足枷
だが秘密は淫靡な薬
深い水底へと誘って
冷たい太陽に沈めてくれる
わたしは誰かの懐で干し草の匂いを嗅いだ
そんな風に仰け反って落下した
栗鼠の錯乱と鈴の乱反射


床暖房に腹ばいで熱燗を飲んでいる
外は激しい吹雪 そして時間


わたしの火傷は緑色をした二人称



                 《2022年1月2日》






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