「看護は母性です。」/板谷みきょう
 
洗面所で顔を洗って
何度も
口を嗽いでた児玉が

「オレ、梅毒になんかなりたくねぇよ。
まだ女も知らない童貞なのに。」

トロミを付けたおつゆも
刻んだオカズも
お粥に混ぜ混ぜにして
口に運んでいく時に

飲み込みと
口に運ぶタイミングを
合わせるよう

「ハイ。ア〜ン。」

繰り返しているうちに
知らずに自分までが
大きな口を開けしまう

「咳き込んだ時に
全部,顔にかかって
口にまで入ったんだぞ。」

彼が担当した痴呆老人は
脳梅毒の患者だった

看護学校では
元看護婦だった教員に
嫌味を言われる少数の
男子学生だった

  看護婦は白衣の天使
  ナイチンゲール精神
  母性が一番大切な
  女性の天職だってことを
  知ってますか

そう言われ
邪険にされていた

病院で与えられた仕事のひとつが
寝たきりの痴呆老人の
食事介助だった時のこと
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