人さらい/塔野夏子
 
自分で自分をさらって
とうとうこんな処まで来てしまった

白い光に
朽ちてしまった街
建物も通りも 空までも色を失くして
そして 誰もいない
ただ乾いた星雲がいくつか
なかぞらで回っている

携えたノートに書きつけていた言葉さえ
いつしか掠れて消え去っていた

とうとうこんな処まで来てしまった
青い水底にあるようなベッドで
一晩中泣いていることだってできたのに

白い光に
朽ちてしまった街
ただ辻々に立つ標の残骸たちだけが
妙に黒々と目に映る

それらは私に
問いかけているのだ
何処を指し示せばよいのかと

自分で自分をさらった私に
勿論答えるすべはない
何処へでも 何処へか
私はただ通りすぎてゆくだけだ





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