オスファハンの独語(一)/朧月夜
我が名はオスファハン。ヒスフェル聖国の正魔導士である。
しかし、今日語ることは我が事ではない。不詳の弟子、エインスベルに関することだ。
彼女は四〇歳を前にして、彼の地へと逝ってしまった。
師よりも弟子のほうが早く命を絶つ、これほどの不孝があるだろうか。
エインスベルについて、汝らは何を知っていよう。
エインスベルについて、知られているのは戯言ばかりだ。
彼女が私の元に弟子入りを志願してきた時、
わたしはどんな戯言を信じているのだろうと思った。
魔導士(ウィザム)という職業など、世間一般ではもっとも嫌われているからだ。
そのことには、三千年前にウィザムが一度この世を滅ぼした、という噂が元になっている。
しかし、噂は所詮噂だ。私はそれ以上のことを語るまい。
私が話したいことは、エインスベル、その人格についてだ。
エインスベルは人から恐れられているほどに高慢だったわけではない。
しかし、自らのことを語るには慎重だった。それには彼女の出自が影響している。
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